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新田 桜
NIHON KEIEI (INDIA) Pvt. Ltd. /Assistant Manager2026/3/4
日系企業進出の具体例をご紹介!注目を集めるインド北東部とは?
インドと聞くと、デリー、ベンガルール、ムンバイといった大都市圏を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、近年、人材・政策・地政学の観点から注目度を高めているのが「インド北東部」です。8州から成るこの地域は、インド政府の成長戦略や対アジア政策の中で重要性を増しており、人材供給地としても存在感を強めています。本記事では、日系企業が知っておくべき、インド北東部の基本情報と位置づけを整理します。
1. インド北東部の基本情報と特徴
インド北東部(North Eastern Region:NER)は、アッサム、メガラヤ、マニプール、ミゾラム、ナガランド、トリプラ、アルナーチャル・プラデーシュ、シッキムの8州で構成されており、シッキム州を除いて7妹州(Seven Sisters)と呼ばれることもあります。中国・ミャンマー・バングラデシュ・ブータンと国境を接する地理的特性を持ち、インド政府にとっては安全保障・外交・経済の観点で重要な地域です。これまでインフラの整備が遅れていましたが、近年は中央政府主導で道路、鉄道、空港、通信といった基盤整備が進められています。また、北東部は民族・言語・宗教の多様性が高く、キリスト教徒が多数派の州が複数存在する点など、インド国内でも特徴的な地域です。
こうした背景から、北東部は現在、インドの「戦略的成長地域」の一つとして位置付けられています。

2. インド政府における北東部の位置づけ
インド北東部は、インドの対外・成長戦略の中で重要な役割を担う地域です。特に、対アジア政策である「Act East Policy」において、北東部は地理的起点と位置付けられています。
East Policyは、主に以下を目的としており、北東部はその実行に向けた玄関口として位置づけられています。
東南アジア諸国との経済連携強化
陸路・物流網の強化
周辺国との人的交流・経済的交流の拡大
この方針の下、道路・鉄道・空港、電力・通信、工業団地といったインフラ投資が中央政府主導で進められており、事業環境の前提条件は段階的に改善しています。北東部は現在、単なる周縁地域ではなく、インドの中長期戦略に組み込まれた重点地域となっています。
3.人材としての北東インドが注目される理由
日系企業を含む外資系企業が北東部に関心を持つ最大の理由は、人材面の特徴にあります。
英語力と対外コミュニケーションへの適応力
北東部では英語が実質的な共通語として使われる場面が多く、ヒンディー語への依存度が比較的低い点が特徴です。そのため、地域によって差はあるものの、外国人や外資系企業との業務に対する心理的ハードルが低く、英語を使った業務への適応も早い傾向があります。
若年層が多く、女性就業率も比較的高い
北東部は平均年齢が低く、教育志向が強い地域です。また、他地域と比べて女性の社会参加が進んでおり、サービス業やバックオフィス業務で活躍する女性人材も多く見られます。
日系企業の職場文化との親和性
一般的に「実直な指示理解」や「協調性の高さ」といった特性があるとされ、日系企業の組織文化との親和性が高いと評価されています。食材や宗教上の制約が比較的少ない点も、日本人駐在員や日本人顧客との協働においてプラスに働く場合があります。
一方で理解すべき現実:都市部就労における課題
先述のような強みがある一方で、北東出身者がデリー首都圏などの都市部で働く際には、特有の課題も存在します。北東出身者は、外見や文化的背景が他地域と異なることから、職場や生活の中で無意識のバイアスや疎外感に直面することがあります。その結果、同郷者同士で固まって生活したり、特定の職場や業種に集中する傾向が見られることがあります。
北東出身者が同郷者同士で行動する傾向は、適応力の問題ではなく、心理的安全性を確保するための行動です。日本企業が彼らを採用する際は、バイアスの排除やインクルーシブな環境整備に注力することが、定着率向上の鍵となります。
4.日印政府の人材交流政策と北東部
日本とインドの両政府は、近年、人材交流を重要な協力分野の一つとして位置付けています。日本側では人手不足への対応、インド側では若年層の雇用創出や海外就労を通じたスキル獲得が主な目的です。
この文脈において、北東部は「日本向け人材供給地の一つ」として注目されています。実際に、日本語教育や職業訓練、日本企業向け人材育成プログラムなどが北東部でも進められており、日印間の人材交流政策の対象地域として位置付けられています。
5.日本企業が注目すべき分野
北東部および北東出身人材をめぐり、日本企業が検討しやすい分野は、製造業のような大規模投資を伴う事業よりも、人材活用や分野限定の協業を前提とした領域に集中しています。以下では、日本企業にとって現実的な分野を整理します。
o IT・BPO・管理系バックオフィス
オペレーション業務は、北東出身人材の英語力や対外コミュニケーション能力を活かしやすいと言えます。
会計・経理補助、ITサポート、データ管理、オペレーション業務など、英語対応を前提とする間接業務は、日本企業にとって導入のハードルが比較的低く、小規模から段階的に採用を進めやすい特徴があります。
デリー首都圏や南インドの主要都市と比べ、人件費水準を一定程度抑えながら、教育水準を確保できる点も評価されています。北東部に拠点を設けるケースだけでなく、都市部オフィスで北東出身人材を採用する形も考えられます。
oサービス・対外対応型業務
実務上、北東出身人材が多く活躍しているにもかかわらず、見えにくいのがこの分野です。具体的には、以下のような業務が挙げられます。
カスタマーサポート
海外顧客対応・問い合わせ対応
営業・オペレーション補助
社内外の調整・コーディネーション業務
これらは必ずしも高度なスキルを必要としませんが、英語力、対人対応力、異文化理解が求められる業務です。北東出身者は、こうした要件との相性が良く、実際に都市部のオフィスや外資系企業で広く活用されています。日本企業にとっては、「IT人材」ではなく、対外・対人対応を支える人材として位置付けることで、採用後のミスマッチを防ぎやすくなります。
o観光・ホスピタリティ
北東部は、自然資源や多様な文化を背景に、中長期的な観光分野の成長が期待されています。現時点で大規模な日系進出が進んでいるわけではありませんが、日本式サービスとの親和性を評価する声もあり、人材面での関与余地は存在します。特に、現地人材の育成、運営ノウハウの提供、サービス品質向上といった分野では、日本企業が段階的に関与できる可能性があります。
o農業・食品・資源関連
アッサム紅茶をはじめとする農産物や、森林・竹資源など、北東部には一次産品が多く存在します。日系企業にとって現実的なのは、一次産品そのものへの投資ではなく、加工、品質管理、付加価値向上、輸出対応といった周辺工程での協業です。
また、環境配慮やサステナビリティが重視される中で、ESG(Environment<環境>、Social<社会>、Governance<ガバナンス>)*文脈での関与や技術提供の余地もあります。ただし、公共事業色が強い案件も多いため、事業性の見極めが重要です。
*ESG:企業や団体がこれら3つの要素に対してどのような影響を与えているかを重視する概念
o教育・人材育成関連(日本向け人材)
近年、北東部では、日本語教育や技能訓練、日本企業向け人材育成プログラムが、中央政府・州政府主導で進められています。日本企業にとっては、拠点進出という形を取らずとも、教育機関や育成プログラムへの関与・連携という形で関係を築くことが可能です。
日本語教育
職業訓練
日本向け人材育成・研修
人材送り出し関連事業
こうした分野は、日本国内の人手不足とも接続しやすく、中長期的な視点で検討する価値があります。
6.日系企業の進出動向
在インド日本国大使館、総領事館、ジェトロの調査によると、2024年10月現在で北東部に進出している日系企業の拠点数は70拠点です(下グラフ1参照)。また、インド企業との協業で拠点数が増えている保険・金融業を除くと、進出先はアッサム州の22社となります。(下表2参照)
北東部に進出している日系企業は一定数存在するものの、その多くはアッサム州に集中しており、製造拠点の設置という形での進出は限定的です。実際、インド国内で製造事業を展開する日系企業であっても、北東部では完成品の製造工場を構える例はほとんど確認されていません。現地で見られるのは、物流・販売・サービス拠点の設置や、インド企業主導のプロジェクトへの関与、人材育成・教育分野を起点とした関係構築が中心です。北東部における日系企業の動きは、大規模投資による拠点展開というよりも、リスクを抑えつつ将来を見据えた段階的な関与として位置付けることができます。

(出典:在インド日本国大使館、総領事館、ジェトロ「インド進出日系企業リスト」(2025年6月)より弊社作成
https://www.in.emb-japan.go.jp/files/100866953.pdf)
表2:アッサム州の日系企業一覧(インド企業との協業による保険・金融業を除く)
業種 | 企業数 | 社名 |
|---|---|---|
製造業(電気機器等) | 2 | Tata AutoComp GY Batteries、Sony India |
製造業(輸送用機械等) | 2 | Maruti Suzuki、Honda Motorcycle and Scooter |
製造業(生産用機械等) | 1 | Kobelco Construction Equipment |
製造業(ゴム製品等) | 1 | Bridgestone |
製造業(食品・飲料等) | 1 | Yakult Danone |
製造業(その他) | 4 | EagleBurgmann、Tosoh、Tata Hitachi Construction Machinery、Honda India Power Products |
運輸業、郵便業 | 3 | Kintetsu World Express、Transystem Logistics International、Nissin ABC Logistics |
卸売業 | 1 | Nipro Medical、Makita Power Tools、Sharp Business Systems |
小売業 | 2 | Erbis Engineering |
情報通信業 | 1 | Inspirisys Solutions |
サービス業 | 1 | TATSUNO |
保険・金融業 | 1 | Kisetsu Saison Finance |
22 |
(出典:在インド日本国大使館、総領事館、ジェトロ「インド進出日系企業リスト」(2025年6月)より弊社作成
https://www.in.emb-japan.go.jp/files/100866953.pdf)
一方、足元で準備が進んでいたり、現地への拠点設立以外の方法で進出を進めている例をご紹介します。
o第一交通産業:運輸事業
2025年度内にアッサム州など北東部から最大30人を集め、運転や日本語の教育を実施する事業を始めることを発表。日本にトラック運転手として送り込み、インド帰国後は同社が再度雇用するスキーム。(2025年9月30日日経新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOJC29BNR0Z20C25A9000000/)
o国際協力銀行(JBIC):融資
政府系金融機関JBICは、三井住友銀行などとともに、インド国家プロジェクトであるアッサム州の竹を原料とするバイオ燃料の生産事業に最大600億円を協調融資。
(2025年8月29日JBIC https://www.jbic.go.jp/ja/information/press/press-2025/press_00071.html)
o京進:教育事業
2025年内にインド北東部の数か所に日本語学校を新設する。現地の社会人向けに日本語を教え、日本で人材不足が進む介護やサービス業の分野で特定技能資格を取って働く人材として送り出す。
(2025年5月22日京進 https://group.kyoshin.co.jp/news/739548/)
7.その他の企業の動向
日系企業以外の大きな動きとしては、Tataグループの半導体製造工場建設が挙げられます。TATAグループは現在2,700億ルピー(約4,700億円)をかけてアッサム州に半導体後工程工場を建設中です。完成すれば1日当たり4,800万個の半導体チップを生産する予定で、工場の第1期は2026年4月に稼働開始予定です。また、このプロジェクトでは、約1.5万人の直接雇用と、1.1-1.3万人の間接雇用が見込まれています。
(2025年11月9日 Economic Times https://economictimes.indiatimes.com/industry/cons-products/electronics/assam-to-be-part-of-global-semiconductor-ecosystem-in-2026-nirmala-sitharaman-reviews-plants-progress/articleshow/125199549.cms)
おわりに
インド北東部は、今後の成長が期待されている地域で、インドでの事業展開に興味を持たれている企業や日本向けのインド人材活用を考える企業にとっては、中長期的な視点で理解しておくべき地域です。
インド人材、拠点配置、バックオフィス体制、コスト構造――こうしたテーマを考える際に、北東部という視点を持つことで、より現実的で柔軟なインド戦略が描ける可能性があります。
【免責】本資料は公開情報を基に作成した一般的な情報提供であり、内容の正確性や完全性を保証するものではありません。実際の取引や判断にあたっては、必ず専門家にご相談ください。弊社は本資料に基づく判断・行動により生じたいかなる損害についても責任を負いかねます。
About Author
2012年に日本の大手化学メーカーに入社。化学工場にて原価管理を経験後、事業部門の損益管理、営業、内部統制などの業務に従事。2018年に英国ケンブリッジ大学でMBAを取得。2024年5月からインド・グルガオン在住。2025年8月より日本経営インディア現地社員として、主に日系企業の会計、税務、会社設立等に関するサポートを行っている。
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