お役立ち情報
杉田 周平
NIHON KEIEI (INDIA) Pvt. Ltd. / Director2025/12/1
インド駐在員の給与に18%課税? 最高裁・高裁の判断を踏まえた最新リスク解説
インドで働いている方の中には、「駐在員のコストには、18%のGST(インドの消費税)がかかる」と聞いたことがある方がいらっしゃるかもしれません。今回は本件に関する背景とこの課税についての考え方、そして最新の状況と課税リスクを回避する対策をまとめてお伝えします。
1. 背景
1) きっかけ
2022年5月、インド最高裁判所は米国系のNorthern Operating Systems社に対し、米国法人とインド法人間で精算していた出向者給与等のコストについて、「人材供給のサービス」にあたるとして、サービス税(後にGSTに統合)の対象となるという判決を出しました。
2) 日系企業への影響
その後、同判決やそれを受けて納税した企業の例を理由に、当局から外国人駐在員が在籍する企業への税務調査や課税処分が続出し、その課税対象となったGST総額は、300億ルピーを超えるという報道もあります。インド日本商工会の2023年5月の調査では、会員300社超から回答があり、半数以上の日系企業が当局から質問状、Show Cause Notice(弁明要求通知)、Demand Order(課税決定命令)のいずれかを受領し、多くの企業が納税を実施したと回答しています。
3) 日系企業・日本大使館の対応
インド日本商工会や在インド日本大使館が中心となって、2022年から継続してこの問題に取り組んでおり、税務当局(CBIC)に対して課税要件の明確化、仕入税額控除の利用、利息の免除・制度改正などを求める陳情書提出や対話を実施、Law Committeeメンバーの各州高官に対しても利息に関する法改正の働きかけなどが実施されています。
2. 考え方
1) 駐在員コストの処理に潜む「課税リスク」
上記を受けて、まだ指摘を受けていない日系企業や、新しくインドに進出された日系企業はどのように考えるべきでしょうか。
日本本社を通して一部の給与が支払われる典型的な構造に次のようなものがあります。
インド現地法人が、日本本社に駐在員のコストを精算する
日本本社がその一部を駐在員の日本口座に給与として振り込む
このとき、インド税務上では「日本本社が人材をインドに派遣してサービスを提供した」と見なされると、人材派遣(外注)扱いとして18%のGSTが課される可能性があります。
2) 本当に課税対象か?
インドのCGST法(第7条及び附則III)では、雇用関係に基づいて従業員が雇用主に提供するサービスは課税対象外(非課税)と明記されています。つまり、駐在員が実際にインド子会社の業務にフルタイムで関わり、その指示を受けて働き、報酬を得ているなら、それは雇用関係であってGSTの対象であるサービス提供には該当しないと解釈できます。
3) 日系企業の対応
上記のような論点がありながら、税務リスクを下げるため、支払って済ませてしまう日系企業が多いのも実情です。その背景には下記3点のような理由が挙げられます。
後で仕入税額控除(ITC)で相殺できるので、十分な売上・仮受GSTがあれば、実質的なキャッシュアウトが発生しないこと
リバースチャージメカニズムにより、GSTの納税・申告は日本本社側で行う必要がなく、インド現地法人で完結できること
後日指摘を受けると、利息・ペナルティや税務訴訟の費用がかかること
4) 検討すべきこと
しかしながら、単に支払いによって事案を収束させる対応を取ると、移転価格税制上の問題やPE(恒久的施設)の認定など他の税務リスクへ波及する恐れがあります。したがって、対応にあたっては慎重な検討を要し、必要に応じて専門家の助言を得ることが求められます。検討の際には、最新の判例情報や行政通達を把握したうえで、それらの結論を機械的に適用するのではなく、自社の実態に即した検討を行うことが重要です。
3. 最新情報と課税リスク回避のポイント
1) 直近の注目判例
2025年7月、フランス系多国籍企業のAlstom Transport India社に対して、カルナータカ州高等裁判所は、出向外国人従業員への給与はGSTに基づく人員供給サービスに該当しないと判断しました。
この裁判は2023年9月に同社がShow Cause Noticeを受領したことから始まりました。同社は出向者の給与を直接本人に支払ったうえで、海外本社が負担した母国での社会保障費や法定給付の払い戻しを実施していました。これに対し、2017年7月から2023年3月までの利息とペナルティを含む納税金額として総額約6億ルピー近くの請求を受けました。
高等裁判所の判断のポイントとなったのは下記の3点です。
①契約
本事案に関しては、出向ではよく見られる、そして冒頭のNorthern Operating Systems社でも用いられていた、出向契約と雇用契約の二重契約の形式でした。この形式は、実質的な雇用者が海外本社と判断される場合がありますが、今回のケースでは、実態が重視され、インド子会社が直接雇用していると判断されました。
まず、出向契約について、海外本社とインド子会社の間で締結されていたものです。契約内容には、出向の目的や出向者の役割、インド子会社が管理監督を行う旨のほか、給与やコストはマークアップ無しで実費精算されることが明記されていました。復帰条項(出向後は外国側に戻る)はありましたが、形式的要素と判断されました。これらから、本件の出向契約は、人を貸す(=サービスを提供する)契約ではなく、単なる出向の枠組みを定めた契約、つまり同一グループ内の人事異動のルールを確認したものとみなされました。
次に、雇用契約は、駐在員とインド子会社の間で正式に締結されていました。勤務場所・給与・勤務期間・職務・解雇条件などを含む内容で締結されており、インド子会社が直接雇用している構造であると判断されました。
②雇用関係の実態
出向者はインド子会社の就業規則・勤務時間に従い、業務の内容・成果についてもインド側の指示を受けていました。業務上の指揮命令権はインド子会社にあり、組織上もインド子会社内の管理下にありました。したがって、形式的には外国企業からの派遣であっても、実質はインド子会社の社員とみなされるべきと判断されました。
③給与
当該出向者の給与は、インド子会社によって計算・支払われていました。インドの所得税法に基づく 源泉徴収(TDS) もインド子会社にて実施されていました。また、出向者はインド国内で所得税を納め、インドの社会保障制度や労働法上の保護を受けていました。
また、高等裁判所は、たとえサービス供給とみなされるとしても、2024年6月26日付のCBIC通達第210/4/2024-GSTによれば、関連する国内事業体がその外国関連会社から受領したサービスに関する請求書を発行しない場合、当該サービスの価値は「ゼロ」とみなされ、これは2017年CGST規則第28条(1)項第2項の但し書きに基づき公正市場価格とみなされる、つまり、「関係会社間で請求書を発行していない場合、サービスの価値を“ゼロ”とみなしてよい」とされており、納税義務は発生しないと指摘しています。
本件は、高等裁判所の判断であり、今後最高裁判所に持ち込まれて改めて判断が下される可能性はありますが、実態としてインド子会社が直接雇用しており、GSTの対象であるサービス提供には該当せず、さらに、実費清算で請求書がなければ納税義務も発生しないという、Alstom Transport India社の主張が全面的に認められる結果となりました。
2) 課税リスク回避のポイント
日系企業への税務調査や課税処分は、現在でも引き続き実施されています。まだ調査対象になっていない日系企業や、インドに新たに進出される日系企業においては、あらかじめ法律や背景を理解したうえで、下記のような対策を実施することが推奨されます。
①契約上の雇用関係を明確にする
雇用契約には、契約書に勤務場所・職務内容・報酬・解雇条件などを明記し、出向契約にも指揮命令権はインド子会社にある旨を明示する
②実態上の雇用関係を立証できるようにする
駐在員がインド子会社の管理下で勤務している証拠を整備する。
例)
インド子会社の社内規則や就業時間に従っている記録
インド子会社での業務指示メールや業績評価・インド子会社での給与計算や源泉徴収の実施、Form16(源泉徴収証明書)発行
③日本本社が「人材派遣料」「出向費用」などの名目で請求書を発行しない(実費精算にとどめる)
日本経営インディアでは、インドでの会計・税務や会社運営において課題をお持ちの日系企業様に向けて、アドバイザリーサービスを展開しております。インドでの税務・会計に関するリスク対応や制度理解に課題を感じられる場合は、お気軽にご相談ください。
<参考>
https://jccii.in/
(インド日本商工会「出向者給与に係るGST課税について」)
https://judgments.ecourts.gov.in/
(WRIT PETITION NO.1779 OF 2025 (T-RES)Alstom Transport India Limited Vs Commissioner of Commercial Taxes)
【免責】本資料は公開情報を基に作成した一般的な情報提供であり、内容の正確性や完全性を保証するものではありません。実際の取引や判断にあたっては、必ず専門家にご相談ください。当社は本資料に基づく判断・行動により生じたいかなる損害についても責任を負いかねます。 |
About Author
2016年に日本経営ウィル税理士法人(現:税理士法人 日本経営)に入社。2年目から海外事業に抜擢され、2018年にはフィリピン拠点を立ち上げて現在も取締役として運営に携わる。2024年7月からはインドに赴任し、日系企業の進出支援やM&A対応、会計アウトソーシング、税務調査など、インド市場に特化した幅広いサポートを行っている。2025年4月よりDirectorへ就任。
お問い合わせ
「顧客の健全な発展を通じて正しく社会に貢献する。」「社員の真摯な成長を通じて正しく社会に貢献する。」
日本経営グループはこれらの社訓を掲げ、日々の業務に邁進しております。
インドでのお客様の成功のお手伝いが出来るよう、お客様目線で対応いたします。

