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杉田 周平
NIHON KEIEI (INDIA) Pvt. Ltd. / Director2026/1/5
インド株券電子化の解説と用語集
インド現地法人の経営に携わられている方は、少なからず「株券電子化」という言葉を聞かれたことがある、もしくは既に実際に手続きをされていることと思います。多くの日系企業を含む対象企業の電子化については、政府の定めた期限を既に過ぎておりますが、まだ完了していない対象会社があるのも事実です。そして、足元で対応を進めているものの、想定以上の手間と時間に直面し、お困りの方も多いのではないでしょうか。
今回は、株券電子化について、基本からわかりやすく説明します。そして、具体的なプロセスの丁寧な解説、日系企業は何に手間と時間がかかっているのか、どうしたらよいのかについて解説します。最後に頻出用語集もお付けしておりますので、ぜひご活用ください。
【目次】
1. 株券電子化とは
2. 関係機関の構造と役割
3. 株券電子化のステップ
4. 3つの躓きポイントと解決策
5. 用語集
1. 株券電子化とは
株券電子化とは、従来紙で発行・保管していた株券を、電子データとして管理する制度への移行を指します。日本では2009年に上場会社株が電子化され、非上場会社については現在も任意です。インドでは下記の通り、会社形態によって進み具合が異なります。
• 上場会社
- 売買は1999~2000年頃に電子化
- 譲渡は2019年に電子化
• 非上場公開会社
- 2018年9月10日に同年10月2日までの義務化を発表
- COVID-19を理由に2020年9月30日まで実質猶予
※2020年末時点での対応企業は70%程度。2022年頃にはほぼ完了
• 非上場非公開会社(※一定の規模以下の小規模会社を除く)
- 2023年10月27日:2024年9月30日(3月決算の場合)までの義務化を発表
- 2025年2月12日:期限を2025年6月30日(3月決算の場合)まで延長
※申請に時間を要するため、延長要請が多く寄せられたことが背景
• 非上場非公開会社のうち、一定の規模以下の小規模会社
適用除外
※一定の規模以下の小規模会社:政府系企業、持株会社、子会社等を除く、払込資本金が4,000万ルピー以下かつ売上高が4億ルピー以下の会社。
足元で対応されているのは日系企業で一番多い形態である非上場非公開会社のため、今回は非上場非公開会社の考え方や手続きについてお伝えします。
なお、非上場非公開会社のうち、一定の規模以下の小規模会社については適用除外ですが、子会社は「適用除外の対象外」のため、ほとんどの日系企業は電子化が必要です。
2. 関係機関の構造と役割
下記の図は、インドの非公開会社における電子化株式の全体像と、関係機関それぞれの役割をまとめたものです。株式発行者、RTA、デポジトリ、DP、株主がどのように連携して電子化が進み、その後の運用が行われるかを俯瞰できますので、実務理解にぜひご活用ください。

3. 株券電子化のステップ
次に、電子化の具体的なステップをご説明します。大きく分けると下記の通り、3つのステップに分けられます。
1) 株式発行者(インド現地法人)による証券番号(ISIN)取得
2) 株主(親会社)によるインド証券口座(DEMAT口座)開設
3) 最終的な株券電子化手続き

それぞれのステップについて、具体的な必要書類や手続きの例を示します。
1) 株式発行者(インド現地法人)による証券番号(ISIN)取得
必要に応じてAOA(定款細則)の修正
RTA及びデポジトリの選定及び委任状提出
デポジトリのユーザー登録
デポジトリへの書類・申請書提出
必要な書類は起用するRTAとデポジトリによって多少差があり、また会社の状況によっても異なりますが、申請フォーム、取締役会決議、定款、設立証明書、財務報告書、純資産証明書、PAS-3、SH-7、GST証明書などとなっています。デポジトリへの書類・申請書提出
手数料支払い
株式発行者、デポジトリ、RTAの三者間契約(Tripartite Agreement)締結
2) 株主(親会社)によるインド証券口座(DEMAT口座)開設
DPの選定
DPに株式証明書、DEMAT口座開設申請書、その他の書類を提出
必要な書類はDPによって異なりますが、主な書類はPAN、住所証明、財務諸表、株主構成、定款、設立証明書、純資産評価書、銀行口座証明、取締役会決議、権限者リスト、署名見本、FATCA申告書、署名権限者のPAN・住所証明・顔写真等です。いくつかの書類には英訳、署名権限者の署名やアポスティーユ取得が必要です。DPの審査後、RTAに送付
RTAの確認後、株式発行者に送付
株式発行者の取締役会等がDEMAT口座開設の承認書類を提出
3) 最終的な株券電子化手続き
上記1)2)の手続きを踏まえて、デポジトリは株主のDEMAT口座に株式を入庫し、株主と株式発行者がそれぞれ完了報告を受けて、株券電子化のプロセスは完了となります。
4. 3つのつまずきポイントと解決策
日系企業におけるインド子会社の株券電子化が停滞する背景には、相互に連関する3つの主要因があります。
第一に「制度や申請プロセスの分かりづらさ」です。
デポジトリ・DP・RTAといった複数のプレイヤーが介在する仕組みや手続きの全体像は、同様の業務の経験者以外には極めて難解であり、何から手をつけるべきか判断できず、初動の遅れを招きます。
第二に「インドへの情報開示に対する根強い警戒感」です。
DEMAT口座開設には、本社取締役や非上場企業の場合にはオーナー(実質的支配者。SBO。 Significant Beneficial Owner)の個人情報を含むセンシティブ情報の提出が求められる場合があります。しかし、「一子会社の手続きのためにこれほどの重要情報を渡して、インド当局による予期せぬ税務干渉や情報漏洩を招かないか」という漠然とした不安が先行し、社内決裁が膠着するケースもよく見られます。
第三に「極めて厳格なKYC審査」です。
ようやく申請に至っても、過去の物理株券と現在の登記情報における微細な表記ゆれや、公証・アポスティーユ認証の形式不備を理由に、DPから拒絶され、手戻りを繰り返す事例が後を絶ちません。
この記事では、複雑な電子化の全体像や用語を整理いたしましたので、まずはインド現地法人で本件に直接かかわる方、そして、さらには日本本社の方々へのご説明・理解促進にお役立ていただければ幸いです。
その上で、親会社が懸念する情報開示への対応や、厳格な審査が求められる登録情報の整合性確認(Pre-audit)については、当社等の専門家にご相談いただくことで、最新の状況を踏まえてサポートが可能です。必要に応じてご相談ください。
一連の手続きは、スムーズに進んでも、半年程度かかります。増資や株式譲渡を予定されている場合には、特に速やかな対応をお勧めします。
5. 用語集
最後に、株券電子化のプロセスで出てくる用語について整理しました。ぜひお手元に置いてお使いください。
<証券電子化制度>
用語 | 正式名称 | 説明 |
|---|---|---|
Depository | ー | 証券を電子的に保管・管理する保管振替機関。デポジトリ。日本のほふり(JASDEC:証券保管振替機構)に相当。 |
NSDLとCDSL | National Securities Depository Limited/Central Depository Services Limited | インドの主なデポジトリ2社。株式発行者はRTAを通して、いずれかに株式を電子保管する。 |
RTA | Registrar and Transfer Agent | 株式移転登記機関。株式発行企業に代わって株式の管理をする金融機関。日本では株主名簿管理人や証券代行機関と呼ばれ、信託銀行や専門会社が担う。 |
DP | Depository Participant | 株主に代わって株式の管理をする金融機関。株主はDPにDEMAT口座を作る。日本では証券会社や銀行に相当する役割。 |
DEMAT account | Dematerialized Account | 株主が電子化された株式や証券を保管するための口座 |
ISIN | International Securities Identification Number | 国際証券識別番号。株式や債券などの金融証券を国際的に一意に識別するための12桁のコード。 |
<電子化必要書類>
用語 | 正式名称 | 説明 |
|---|---|---|
Designated director | ー | 署名権限者。取締役会決議で指定する。 |
Net Worth Certificate | ー | CAが発行する純資産評価書 |
Cancelled cheque | ー | キャンセルド・チェック。2本の平行な線を引いて「CANCELLED」と記入し、使用不能にした小切手で、金融機関への情報目的で使用される。 |
FEMA Declaration Letter | Foreign Exchange Management Act Declaration Letter | インドの外国為替管理法を守ることを宣言する書類 |
FATCA Declaration | The Foreign Account Tax Compliance Act Declaration | 米国の外国口座税務コンプライアンス法に基づき、米国市民権保持者、永住権保持者 (グリーンカード保有者)、税法上の米国居住者でないことを申告する書類。 |
Apostille | ー | アポスティーユ。日本の官公署、自治体等が発行する公文書に対する外務省の証明。 |
<関係機関>
用語 | 正式名称 | 説明 |
|---|---|---|
MCA | Ministry of Corporate Affairs | インドの企業省。会社法に基づき、会社の設立、登記、監督などを管轄。株式電子化を義務化する法令(Rule 9B等)を発布。 |
SEBI | Securities and Exchange Board of India | インド証券取引委員会。証券法に基づき、証券市場を監督。上場会社に対する電子化ルールを作成。 |
<MCA提出フォーム>
用語 | 正式名称 | 説明 |
|---|---|---|
Form PAS-6 | Reconciliation of Share Capital Audit Report | 非上場会社向けの、半期ごとの株式資本調整監査報告書。電子化対象企業は提出必須。 |
Form SH-1 | Share Certificate | 物理的な紙の株券のフォーマット |
Form SH-7 | ー | 株式構成・資本金変更があれば提出するフォーマット |
MGT-7 | ー | 確定申告時に電子化の進捗状況を報告するフォーマット |
<手数料>
用語 | 正式名称 | 説明 |
|---|---|---|
ACF | Annual Custody Fee | 株式保管手数料。株式発行会社が、RTA を通じて NSDL/CDSL に払う。 |
AMC | Annual Maintenance Charge | 口座維持手数料。株主がDPに支払う。 |
<その他関連用語>
用語 | 正式名称 | 説明 |
|---|---|---|
Tripartite Agreement | ー | 株式電子化の三者契約(株式発行者・RTA・デポジトリ間)。他の分野でも三者間契約はあるが、インドでは 「Tripartite Agreement」と単独で言うと、株券電子化の契約を意味する場合が多い。 |
MRL | Management Representation Letter | 経営者確認書。監査時に経営者が義務が遵守されていることを表明する文書。株券電子化に関する状況も記載する。 |
ITR | Income Tax Return | 確定申告書 |
PAN | Permanent Account Number | 個人・法人に付与される納税者番号 |
KYC | Know Your Customer | 身元確認手続き |
CKYC | Central KYC | KYCの国主導の集中管理システム。金融機関が顧客のKYCの確認のために使用する。 |
DSC | Digital Signature Certificate | MCAに申請する電子署名証書 |
Promoter | ー | 会社設立時の発起人。ローカル企業では創業者、日系企業では本社役員・設立時の責任者など。 |
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About Author
2016年に日本経営ウィル税理士法人(現:税理士法人 日本経営)に入社。2年目から海外事業に抜擢され、2018年にはフィリピン拠点を立ち上げて現在も取締役として運営に携わる。2024年7月からはインドに赴任し、日系企業の進出支援やM&A対応、会計アウトソーシング、税務調査など、インド市場に特化した幅広いサポートを行っている。2025年4月よりDirectorへ就任。
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