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お役立ち情報

杉田 周平

NIHON KEIEI (INDIA) Pvt. Ltd. / Director

2026/5/29

インド移転価格の実務ポイント!日系企業が押さえるべきTP文書と税務リスク

*本資料は2026年3月時点で作成しており、2026年4月からの所得税法改正の内容は反映できておりません。

1. 移転価格税制とは

移転価格税制とは、英語ではTP(Transfer Pricing)と言われ、端的に言えば、「グループ会社間の取引価格を、第三者と取引する時と同じ価格(ALP、独立企業間価格)に設定しなさい」という制度で、OECDガイドラインに基づき、各国で導入されている国際的な税制です。日本の親会社に高いロイヤリティを払ったり、日本の親会社から必要以上に高い価格で仕入れたりして、インドの利益を減らされると、インド政府が徴収できる税金が減ってしまうからです。

インド政府はこれを利益の海外流出として、非常に厳しくチェックします。日本を含む各国で同様の制度がありますが、ルールが少しずつ異なります。

今回はインドの制度、そろえるべき書類といったルール面から、社内でどのような教育をしておくべきか、日系企業ではどのような取引が問題になりやすいかといったリアルな情報まで、実務上のポイントを解説します。

2. 対象取引

インドの移転価格税制の対象となるのは下記の2つで、これは2026年4月施行予定の2025年所得税法(The Income-Tax Act, 2025)で規定されています。

  • 「関連者(AE:Associated Enterprise)」との「国際取引(International Transaction)」(以下、国際関連者取引)

  • 「特定国内取引(SDT:Specified Domestic Transaction)」

「関連者」の定義は次の通りです。

 a. 経営・支配・資本に直接・間接に参加している関係で、次のいずれか:

  (i) 同一人物・同一グループが両社の経営・支配・資本に重要な影響力を保有
  (ii) 一方が他方の議決権26%以上保有
  (iii) 同一者が両社それぞれ26%以上保有

 b. 一方が他方へ貸付し、その貸付が総資産簿価の51%以上

 c. 一方が他方の借入総額の10%以上を保証

 d. 一方が他方の取締役の過半数、又は1名以上の執行役員を任命

 e. 同一人物・グループが両社の取締役過半数、又は1名以上の執行役員を任命

 f. 事業が相手の特許・商標・ノウハウ等の知的財産に全面依存

 g. 原材料・消耗品の90%以上を相手(又は指定先)から調達し、価格等が相手の影響下

 h. 製品の販売先が相手(又は指定先)で、価格等が相手の影響下

 i. 一方が特定個人に支配され、他方も同一個人(又は親族等)に支配

 j. 一方がHUFに支配され、他方が同一HUFメンバー(又は親族等)に支配

 k. 一方がファーム/AOP(JV、共同投資等)/BOI(家族共同投資等)で、他方がそこに10%以上の持分

 l. 別途規定される相互利害関係(mutual interest)がある場合

「国際取引(International Transaction)」の定義は次の通りです。

少なくとも一方が非居住者である関連者間の取引であり、以下を含む。

 a. 有形資産取引:建物、機械、設備、商品等の購入・販売・譲渡・賃貸・使用

 b. 無形資産取引:特許、商標、著作権、ブランド、ノウハウ、ライセンス等の譲渡又は使用許諾

 c. 金融・資本取引:貸付・借入、保証、有価証券売買、前払・未払・繰延払・債権債務等

 d. 役務提供:マーケティング、管理、技術支援、設計、コンサルティング、法務・会計等のサービス

 e. 事業再編・組織再編:関連企業間の事業再構築・再編取引(取引時点で損益への影響がなくても対象)

 f. 費用分担・コスト配分契約:複数の関連企業間での費用配分や共同負担に関する取決め

 g. その他:関連企業の利益、所得、損失又は資産に影響を与える一切の取引

「特定国内取引(Specified Domestic Transaction)」

特定国内取引(SDT)とは、Section 40A(2)(b)に定める関係者(取締役、主要株主、グループ会社等)への支払いが年間2億ルピーを超える国内取引で、移転価格規制の対象となるものを指します。

日系企業で一番多いケースは、日本の親会社とインド子会社との間の売買取引や役務提供、貸付・借入等ですが、それ以外でも様々な面で対象取引でないか確認する必要があります。

3. 必ず必要な文書(Form 3CEB)

国際関連者取引もしくは特定国内取引が1ルピーでもある場合に、必ず必要となるのが、Form 3CEBと呼ばれるインド勅許会計士証明(CA証明)です。提出先は所得税ポータル(e-Filing)からとなります。

インド勅許会計士証明(CA証明)

提出対象者

主な内容

期限

Form 3CEB

国際関連者取引もしくは特定国内取引が1ルピー以上ある場合

インド勅許会計士(CA)証明
・関連者の基本情報
・国際取引(種類・金額・ALP算定方法等)
・特定国内取引

翌年度10月末

2025-2026年度分(2026年10月末締切)に使用されるフォームはForm 3CEBですが、2026-2027年度分からはForm 48となり、内容も変更となる予定です。

4. 状況に応じて必要な文書(ローカルファイル、マスターファイル、国別報告書)

移転価格税制への対応は、「移転価格文書」を社内で保管したり、「マスターファイル」や「国別報告書」等を所得税ポータル(e-Filing)から提出したりして、グループ会社間の取引価格が適正であったという根拠を残すことが中心です。文書は会社や取引の規模に応じてOECDガイドラインに基づく三層構造(ローカルファイル、マスターファイル、CbCR)として整理されています。

ローカルファイル

提出対象者

主な内容

期限

移転価格文書(TP Documentation、ローカルファイル)

国際関連者取引が年間1千万ルピー以上
または
特定国内取引が年間2億ルピー以上

インド法人単体の詳細な取引分析
・関連者取引の詳細
・FAR分析(Functions/Assets/Risks)
・比較可能分析
・ALP算定方法
・Comparables分析

翌年度10月末(保管義務のみで提出不要だが上記Form 3CEBの前提となる)

マスターファイル

提出対象者

主な内容

期限

Form 3CEAA PartA

多国籍企業グループの構成企業

・多国籍企業グループの名称・住所
・当該構成企業の名称・住所・PAN番号

11月末まで

Form 3CEAA PartB
(マスターファイル)
(※1)

直前会計年度のグループ売上年間50億ルピー超
かつ
当該年度の国際関連者取引が5億ルピー超(無形資産取引の場合は1億ルピー超)の構成企業

グループ概況
・組織構造
・事業説明
・無形資産
・金融活動
・財政状況
・納税状況

11月末まで

Form 3CEAB

多国籍企業グループの構成企業(インド国内に構成企業が2社以上ある場合)

・Form 3CEAA Part B(マスターファイル)を申告する構成企業の情報

10月末まで

国別報告書(CbCR)・・・グループ連結収入年間640億ルピー以上

対象

主な内容

期限

Form 3CEAC

上記収入基準に該当する多国籍企業グループの構成企業

・グループ親会社の基本情報
・代理申告会社の指定有無

Form 3CEAD(国別報告書)の期限の2カ月前

Form 3CEAD
(国別報告書)

上記収入基準に該当する多国籍企業グループのグループ親会社もしくは代理申告会社である構成企業

国別報告書
・所得・納税の配分状況
・事業の状況
・グループ構成企業のリスト

グループ親会社の決算から1年以内

Form 3CEAE
(※2)

上記収入基準に該当する多国籍企業グループの構成企業で、下記に該当する企業
・グループ親会社がインド国外にある
かつ
・その国に国別報告書の制度が存在しない、もしくは、その国がインドと自動情報交換合意を結んでいない

・グループ親会社の基本情報
・インドでForm 3CEAD(国別報告書)を申告する構成企業の基本情報

グループ親会社の決算から1年以内

(※1)マスターファイルについては、作成基準となる売上金額が日本(グループ1,000億円以上)と大きく異なるほか、内容も一部異なる部分があるので、注意が必要です。

(※2)日本にも国別報告書の制度はあり、日本とインドは、ともに自動情報交換に関する多国間合意に参加し合意を発効させているため、グループ親会社が日本にある場合には、Form 3CEAEは不要です。

上記各書類のペナルティに関しては次の通りとなっています。ローカルファイル(移転価格文書)は未作成・不備や提出要求に応じない場合、関連者取引額の2%のペナルティ、Form 3CEBは未提出で10万ルピーのペナルティが課されます。マスターファイルは未提出・不備で50万ルピー、CbCRは遅延に応じて1日5,000〜50,000ルピー、不正確な場合は50万ルピーのペナルティとなります。さらに、これらの不備により税務調査で移転価格調整が行われると、最大200%の追加ペナルティが課される可能性があります。

5. 適正な価格(ALP:Arm’s Length Price)の計算方法

移転価格税制では、関連会社との取引価格が独立企業間価格(Arm’s Length Price:ALP)であるかどうかを検証する必要があります。「Arm’s Length Price」 は直訳すると「腕一本分の距離」。そこから転じて互いに距離を保ち、利害関係なく独立して取引する状態を表す法律用語となりました。

インドの所得税法では、ALPの算定方法として主に次の方法が認められています。

① 比較可能価格法(CUP:Comparable Uncontrolled Price Method)

第三者との同種取引価格を直接比較する方法です。例えば、同じ製品を第三者にも販売している場合、その価格を比較対象として使用します。理論上は最も直接的な方法ですが、完全に比較可能な取引を見つけることが難しいケースも多くあります。

② 再販売価格基準法(RPM:Resale Price Method)

関連会社から購入した商品を第三者へ再販売する際の価格を基に、適正な粗利率を差し引いて算定する方法です。主に販売会社に適用されます。

③ 原価加算法(CPM:Cost Plus Method)

製造やサービス提供にかかった原価に、第三者取引で一般的に認められるマークアップを加えて算定する方法です。製造委託やサービス提供取引でよく用いられます。

④ 利益分割法(PSM:Profit Split Method)

関連会社間で共同して価値を生み出している場合に、グループ全体の利益を合理的に配分する方法です。高度な無形資産が関係するケースなどで使用されます。

⑤ 取引単位営業利益法(TNMM:Transactional Net Margin Method)

比較可能な企業の営業利益率と比較する方法で、インドの移転価格実務では最も多く使用されています。比較可能企業(Comparables)をデータベースから選定し、利益率を比較します。

実務上は、取引の性質、入手可能なデータ、機能・リスクの分析(FAR分析)などを踏まえ、最も適切な方法を選択することが重要です。

6. セーフハーバー制度とAPA

インドでは、移転価格リスクを低減するための制度としてセーフハーバー制度とAPA(Advance Pricing Agreement)制度が導入されています。

<セーフハーバー制度>

セーフハーバー制度とは、一定の利益率などの基準を満たしていれば、税務当局が移転価格について原則として調整を行わない制度です。
例えば、一定の条件を満たすソフトウェア開発サービス会社やITeS(情報技術対応サービス)企業については、規定された利益率以上であれば移転価格調整の対象としないとされています。
この制度を利用することで、移転価格調査のリスクを軽減することができます。ただし、適用対象となる取引や利益率には細かい条件があるため、事前に確認が必要です。

<APA(Advance Pricing Agreement)>

APAとは、将来の関連者取引について適正な移転価格の算定方法を税務当局と事前に合意する制度です。
インドのAPA制度には次の種類があります。

  •  Unilateral APA(インド税務当局との合意)

  •  Bilateral APA(相手国税務当局との二国間合意)

  • Multilateral APA(複数国での合意)

APAの有効期間は通常5年間で、さらにrollback(過去年度への適用)も認められる場合があります。
APAを取得すると、対象取引について長期間の税務確実性が得られるため、移転価格リスクの高い企業では積極的に利用されています。

7. 日系企業でよく問題になる5つの取引

インドの移転価格税務調査で、日系企業で特に問題になりやすい取引の例を5つご紹介します。実際の調査でも頻繁に確認される論点です。

① Management Fee(管理サービス費)

日本の親会社がインド子会社に対して、経営支援や管理業務を提供する対価として支払われる費用です。
税務調査では特に次の点が確認されます。

  • 実際にサービスが提供されているか

  • サービス内容が具体的か

  • インド子会社に経済的利益があるか

例えば、単にグループ経営管理を行っているだけの場合、「株主活動(Shareholder activity)」として費用が否認される可能性があります。

② Shared Service Fee(グループ共通サービス費)

グループ内のバックオフィス機能(IT、人事、法務、財務など)をまとめて提供し、その費用を各会社に配賦する取引です。
税務当局は主に次の点を確認します。

  • 配賦基準(allocation key)の合理性

  • 実際にサービスが提供されている証拠

  • インド子会社が実際に便益を受けているか

配賦根拠が曖昧な場合、費用が否認されるケースがあります。

③ Royalty(ロイヤルティ)

日本の親会社が保有する技術やブランドをインド子会社が使用する場合の対価です。
問題になりやすいポイントは次の通りです。

  • ロイヤルティ率が市場水準と比べて高くないか

  • 技術やブランドの実質的な価値

  • 技術移転契約の内容

特に製造業では、技術ロイヤルティの妥当性が税務調査の重要なテーマになります。

④ Intercompany Loan / Guarantee(グループ内ローン・保証)

親会社やグループ会社からの借入、または親会社保証に関する取引です。
税務調査では次の点が確認されます。

  • 金利が市場金利と比較して適切か

  • 保証料の有無

  • 借入条件の合理性

市場金利と大きく異なる場合、税務当局が金利を調整する可能性があります。

⑤ 製造委託・販売取引(Contract Manufacturing / Distribution)

インド子会社が

  • 親会社のために製造する場合

  • 親会社製品を販売する場合

に、利益率が適切かどうかが検証されます。
特に次の点が重要になります。

  • インド子会社の機能とリスク(FAR分析)

  • Comparables企業との利益率比較

  • TNMMによる利益率の検証

インドでは、比較対象企業の選定(Comparables selection)が争点になることが多い分野です。

これらの取引については、契約書、価格算定根拠、サービス提供の証拠などを事前に整備しておくことが重要です。

8. まとめ

ンドの移転価格税制は、日本と基本的な考え方は共通するものの、文書要件や実務運用には大きな違いがあります。特に、税務当局は形式よりも実態を重視する傾向が強く、取引の合理性や便益を説明できるかが重要なポイントとなります。日常的な取引の段階から、適切な文書整備と説明可能な体制を構築しておくことが、税務リスクの低減につながります。

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About Author

2016年に日本経営ウィル税理士法人(現:税理士法人 日本経営)に入社。2年目から海外事業に抜擢され、2018年にはフィリピン拠点を立ち上げて現在も取締役として運営に携わる。2024年7月からはインドに赴任し、日系企業の進出支援やM&A対応、会計アウトソーシング、税務調査など、インド市場に特化した幅広いサポートを行っている。2025年4月よりDirectorへ就任。

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