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お役立ち情報

杉田 周平

NIHON KEIEI (INDIA) Pvt. Ltd. / Director

2026/8/13

【インド】ヘルスケア市場の最新動向 ~規制・市場機会・日系企業の進出事例を解説~

14億人を超える人口を抱えるインドでは、経済成長や所得水準の向上を背景に、ヘルスケア市場が急速に拡大しています。医療需要の増加に加え、高齢化や糖尿病・循環器疾患などの非感染性疾患(NCDs)の増加も市場拡大を後押ししています。

インド政府は、5億人以上を対象とする世界最大級の公的医療保険制度「Ayushman Bharat PM-JAY(AB PM-JAY)」を推進するとともに、Ayushman Bharat Digital Mission(ABDM、旧NDHM)を通じて全国規模のデジタルヘルス基盤の整備を進めています。

また、NATHEALTHなどの業界レポートでは、2034年頃までに約360万床の追加病床、約300万人の医師、約600万人の看護師が必要になると試算されており、医療インフラや医療サービスへの投資は今後も拡大すると見込まれています。

こうした市場環境の変化を背景に、高品質な医療機器・医薬品や病院運営・品質管理ノウハウを有する日本企業への期待も高まっています。

1. インドの医療規制の最新動向

インドにおける医薬品および医療機器の規制は、中央医薬品基準管理機構(CDSCO)が所管しています。近年は国際基準との整合を進める一方、海外で十分な実績を有する製品については審査の効率化も図られています。

医薬品:一定条件下で現地臨床試験を免除

New Drugs and Clinical Trials Rules, 2019(Rule 75)では、日本(PMDA)、米国(FDA)、英国、EU加盟国、オーストラリア、カナダなどで承認・販売されている新薬について、一定の条件を満たす場合、インド国内での臨床試験が免除されます。CDSCOがインド人集団における追加の安全性・有効性評価が必要と判断した場合には、補足的な臨床試験が求められます。

医療機器:海外承認実績を活用した審査

医療機器はMedical Devices Rules, 2017に基づき、リスク区分(Class A~D)に応じた審査が行われます。日本、米国、EU、カナダ、オーストラリアなどでの承認実績や自由販売証明書(Free Sale Certificate:FSC)は、輸入登録申請時の重要な資料として活用されており、審査の円滑化につながっています。

再生(Refurbished)医療機器の輸入

2025年1月、CDSCOは、Medical Devices Rules, 2017には再生(Refurbished)医療機器を対象とした輸入ライセンス制度が設けられていないことを改めて明確化し、販売・流通を目的とした再生医療機器については輸入ライセンスを発給できない旨を税関当局へ通知しました。

これまで一部の地方都市や中小規模病院では整備済みの中古医療機器も利用されていましたが、今後は新品への更新需要が高まる可能性があります。耐久性や品質に加え、保守・メンテナンス体制を含めた総合的な価値を提供できる日本メーカーにとっては、新たな事業機会となることが期待されます。

2. 日系企業の進出・協業事例

インドには、それぞれ異なる特徴を持つビジネス都市があります。進出先を検討する際は、自社が求める人材、市場、サプライチェーンなどを踏まえて比較することが重要です。

分野

主な日系企業

主な取組

医療機器

イノベーション・R&D・GCCシスメックス、サラヤ、オリンパス、Medical Excellence JAPAN(MEJ)

シスメックス:グジャラート州サナンド工場で体外診断用試薬や検査機器を現地生産し、物流コスト削減と価格競争力の向上を推進。

オリンパスとサラヤ:内視鏡洗浄・感染対策の普及に向けた教育活動やトレーニングを共同で展開。

MEJ:YEIDAと連携し、ノイダ国際空港周辺で日系医療機器企業の集積拠点(メディカル・デバイス・パーク)の形成に向けたプロジェクトを推進。

医薬品・ワクチン

武田薬品工業、エーザイ

武田薬品工業:デング熱ワクチン「QDENGA」の供給拡大に向け、インドのBiological E社と戦略的提携。製造委託での生産能力の拡充を進めている。

エーザイ:アンドラ・プラデシュ州にグローバル・ケイパビリティ・センター(GCC)を設立し、グローバル業務機能の強化を進めている。

デジタルヘルス

エレコム、オムロン ヘルスケア

エレコム:オンライン診療大手MediBuddyと提携し、IoTヘルスケア機器とデジタルヘルスサービスの連携を推進。

オムロン ヘルスケア:家庭用血圧計などのヘルスケア事業を展開。Tricog Healthと協業し、AIを活用した心電図の遠隔診断サービスなど、デジタルヘルス事業を強化している。

病院・予防医療

Sakra World Hospital、三井物産、富士フイルム

Sakra World Hospital:セコム医療システムと豊田通商が共同で参画する病院運営会社を通じ、日本式医療サービスを提供。2024年には第2病院の建設も発表し、事業拡大を進めている。

三井物産:IHH Healthcareへの出資を通じてアジア地域の病院事業へ参画。

富士フイルム:AI技術「REiLI」を活用した健診センター「NURA」を展開し、予防医療市場の拡大に取り組んでいる。

3. インド市場の特徴と日本企業への示唆

インドのヘルスケア市場は高い成長性を有する一方、価格競争が激しく、都市部と地方部では医療水準や所得水準にも大きな差があります。そのため、高性能な製品を投入するだけでは十分とは言えず、現地市場に適した製品・サービスや事業モデルの構築が重要となります。

特に近年は、「Make in India」政策による現地生産の促進、デジタルヘルスの普及、医療インフラ整備の加速という3つの潮流が同時に進んでいます。これにより、日本企業には製造・販売・保守・デジタルサービスを組み合わせた包括的なソリューションを提供する機会が広がっています。

一方で、ローカルメーカーや中国企業との価格競争に加え、欧米メーカーもインド市場向けに機能や価格を最適化した製品を展開しており、競争環境は年々厳しさを増しています。そのため、日本企業には、高品質であることに加え、価格競争力、アフターサービス、デジタルソリューションなどを含めた総合的な価値提案が求められています。

4. 日本企業に期待される成長戦略

① インドを製造・輸出ハブとして活用する

インド国内市場だけでなく、UAEとのCEPAや2026年7月に発行した英国とのCETAなど発行済みの経済連携協定に加え、2026年1月に交渉妥結したEUとのFTAの発行も見据え、中東・アフリカ・欧州向け輸出拠点としてインドを活用する戦略が重要となります。

② 総所有コスト(TCO)による差別化を図る

価格だけで競争するのではなく、耐久性、故障率、保守性、稼働率、試薬効率などを含めた総所有コスト(Total Cost of Ownership:TCO)の優位性を定量的に示すことで、日本製品ならではの付加価値を訴求できます。

③ 現地生産と品質管理を両立する

インド政府は、「Make in India」政策に加え、医療機器や医薬品を対象としたPLI(Production Linked Incentive)制度を通じて、生産額に応じたインセンティブを付与し、国内製造やサプライチェーンの強化を進めています。また、各州では医療機器パーク(Medical Device Parks)の整備も進められており、現地生産を後押しする環境が整いつつあります。

こうした政策を活用しつつ、コア技術や重要部材は日本で管理し、組立・包装・ラベリングなどはインドで行うハイブリッド型生産体制は、有力な選択肢となります。品質とコスト競争力を両立することで、インド市場だけでなく第三国市場への展開も期待できます。

④ 官民・異業種連携を活用する

医療機器メーカー、IT企業、病院、公的機関(Medical Excellence JAPAN(MEJ)、JICAなど)が連携し、遠隔医療やAI診断、移動型健診サービスなどを組み合わせたソリューションを提供することで、地方市場や新興市場への展開が期待されます。

5. まとめ

インドのヘルスケア市場は、人口規模、医療インフラ需要、デジタル化の進展を背景に、中長期的な成長が期待される市場です。政府による医療制度改革や現地生産支援策も進んでおり、日本企業にとっては、医療機器、医薬品、デジタルヘルス、病院運営など幅広い分野で事業機会が広がっています。

一方で、市場では価格競争や現地化競争が一層激しくなっており、高品質だけでは十分とは言えません。現地ニーズに合わせた製品・サービスの提供に加え、現地生産、アフターサービス、デジタル技術の活用、現地パートナーとの協業を組み合わせた事業戦略が、持続的な成長の鍵となるでしょう。

インド市場を単なる販売先ではなく、製造・研究開発・デジタルヘルス・第三国輸出を含めた戦略拠点として位置付けることが、日本企業の中長期的な競争力強化につながると考えられます。


参考文献


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About Author

2016年に日本経営ウィル税理士法人(現:税理士法人 日本経営)に入社。2年目から海外事業に抜擢され、2018年にはフィリピン拠点を立ち上げて現在も取締役として運営に携わる。2024年7月からはインドに赴任し、日系企業の進出支援やM&A対応、会計アウトソーシング、税務調査など、インド市場に特化した幅広いサポートを行っている。2025年4月よりDirectorへ就任。

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